山のばあの岩

 むかし、むかし、岩倉山のふもとの海岸にひとりのさびしいばあさんが住んでいました。
子どもも死に、夫も死に、たった一人で、ぼんやり毎日海をながめてくらしていました。
 それには、こんなわけがありました。このばあさんの子どもも夫も、みんな海で死んでしまったのです。
 夫は漁師で、その日も海へ魚取りに行きました。日ごろは一人で行くのに、その日に限ってとっても良い天気だったので、子どもを連れて出ました。
 ところが、ふの悪いことに、急に天気がくずれ、大嵐になってしまったのです。小舟は二人もろとも ざんぶりのみこんでしまったのです。たった一人残された母親は、いつ帰るか、いつ帰るかと、わが夫の帰る日を待っていました。一日、二日、三日、とうとうまてど、くらせど、帰ってこなかったのです。
 母親は、それから毎日毎日海をながめ、ぼんやりとした暮らしになりました。せめてわが子の死がいなりと、夫の死がいなりと、この砂浜にあがってこないかしら。もし上がってきたら手あつくくようしてやりたいと思っていました。しかし、とうとう上がってきませんでした。
 そうこうするうちに、いつの間にかこの母親はばあさんになってしまったのです。 

 ある日、ばあさんはわが子会いたさに、海へ行ってみました。はだしになって海に入ってみると沖の方にわが子がいるようで、ずんずん深いところへ歩いていくようになりました。
「どうせ、一人だ。あの子のいる沖に行こう。」
と、自分の着物のりょうそでに大きい石を一個ずつ入れ、どんどん沖の方へ出ていきました。もう死のうと思ったのです。ところが胸あたりまでしずんだころ、沖の方から
「母さん、母さん、生きていておくれ、おれをとむらってくれ。」
という、わが子からの声がどこからともなく聞こえてくるではありませんか。これは不思議なこと、わが子はじょうぶつしていないのかもしれないとわかった母親は死ぬのをやめて、引き返し再び砂浜の方へ帰ってきました。そして、たもとの大きい石、二つを取り出し岩倉山のふもとの畑においたそうです。
 そうしてあつくとむらったのです。大きい岩は夫小さい岩はわが子としていつまでもばあさんは、おがんだそうです。

 この岩は今も残っています。上が大きくて下が細くなっているので今にもひっくり返りそうな大岩ですが、だれもさわることなくいつの間にか、この岩のことを「山のばあ岩」と呼ぶようになったそうです。
 もう一つの岩は、そのそばの畑の中にうまっています。でも二つとも意味のある岩なので、この畑の持ち主の家の人たちは、そのままにしておられます。(完)

山のばあ岩

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