馬とカッパの話(水虎)
むかし むかし 今の船渡橋(ふなわたばし)の近くに、百姓の五郎兵衛という人がすんでいたそ
うです。
五郎兵衛は、馬をたいへんよくかわいがり、朝、昼、晩と馬の体をはけですいてやったり、早く起
きて新しい草を刈って食べさせたり、夏には、近くの井関川に馬を入れて、よく洗ってやったり、それ
はそれはよく世話をしていました。それで五郎兵衛にとって馬は家族の一人ぐらいに思って育ててい
ました。
それもそのはず、そのころは、馬といえば家の次ぐらいの財産でありました。米作り、畑作りの耕し
から、物運びと、馬なくては百姓はできませんでした。人間にとって一番苦しい仕事を馬がしてくれる
からです。五郎兵衛もきっとそう思ったにちがいありません。馬をとても大事にしていたのです。
ところが、あまり五郎兵衛が、馬をよくかわいがるのをつねひごろ、ねたんでいたものがいました。
それは、井関川のせきのすぐ橋の下に住んでいるカッパです。
「よくもまあ、あんなに かわいがるもんだ ひとついたずらをしてやるかな。」
と思ったカッパは、そーっと川の近くにある馬小屋に入りました。ちょうどいいことに五郎兵衛はいませ
ん。
「よし、いまだー。」
と思ったカッパは、馬をぐいぐい引っぱって川の中にひきずりこもうとしました。馬は、はいるまいと 足
をふんばってがんばるし、いたずら好きのこのエンコは、川の中へ馬をいれたら”わしの天下”と思って
それこそ一生けんめいがんばりました。
ところが、五郎兵衛がひごろよく飼っているので なかなかの力持ち、ずいぶんひっぱてみたが、馬
の方が力が強く カッパはあべこべに、馬小屋へひきずりこまれてしまいました。
ちょうどそのとき、五郎兵衛が帰って来ました。カッパは、いち早く馬おけのかげにかくれました。しか
し、五郎兵衛はすぐに感づき
「やいカッパ、よくも 馬小屋までやって来たな、このいたずらものめ。」
と、えり首をとっつかまえてやっつけようとしました。エンコはこうなっては仕方がない。五郎兵衛の前に
両手をついてあやまりました。けれども、五郎兵衛はしょうちしません。そこで、カッパは泣き泣き、
「これから先 三里以内において 決して人や飼っている動物に いたずらしません。また 川から出て
来ません。どうぞかんべんして いのちだけは お助けください。」
と言ったそうです。その後、井関川の西条のほとりに 誓いの石を立てて去っていきました。
それが、今ある西条のじぞう様の横にある水虎(エンコ)石と馬石です。
今、エンコ石と馬石の西どなりには仏様を、東どなりには神様がまつってあり、それから、馬を飼って
いる人の守り神となりました。
このごろは、馬を持っている人がありませんが、この近くの人々は、信仰にあつく、今なお線香の煙は
たえません。
東条の西村スーパー前にも”カッパ”の石といわれている岩がありますが、とにかく阿知須のこのあた
りには、昔、カッパがすんでいたそうです。